2020/07/14 21:33

私たちが取り組むものづくりやサービスにおいては、なによりまず最初に素材について徹底的に話し合いをします。
一般的な商品や建築が出来上がる流れというのは、まず要求される性能があり、それを満たす姿かたちが存在して、それから次にその形をどのような素材を使って実現するかを考えます。例えば家づくりの場合、それぞれ皆様に要望がありつつもご予算あり、相場によって大体こういう姿形、大きさ広さが適当ですねとなり、その中で間取り図をこねくり回していると図面が出来上がり、なんだかイメージしてたものとは若干違うような気もするけれども、息つく暇もなくお客様お好みの素材は何ですかとカタログをポンと渡され、正にこれだというものが中々見つからなくても、どんどん状況は進んでいき、何となくオススメの素材を貼り付けたら何となくそれらしいものに見えてきて、ちょっとフワフワするような気はするけれども、「じゃあそんな感じで」と出来上がって、後はお支払いして、住んでみれば今まで住んでたところより冬でも暖かいし、後は粛々と住宅ローンを返すだけで世は並べて事もなし、というのがほとんどなんじゃないかと思います。

もちろんこれは一つの正攻法ですし、特に何に問題があると批判をすることに意味があるとは思わないのですが、実は結構多くの人が意外とこの一連の流れについて、何か違うんじゃないかと感じているのではないかと思っています。この感情を作り出している本質はシンプルで、とてもプライベートなものの購入において、あなたが好きなデザインは何ですが?どんな物が欲しいですか?という質問に答えられる人なんて専門のデザイナーですら答えるのが難しい問いを無責任に突きつけられるからです。結果、最も私的で趣味や個性が反映されたものを手に入れたはずが、なぜか誰かのおススメや、予算や相場に見合った一般常識で組み立てられたものとして目に前に現れるからではないかと思います。ではどうすればいいかというと意外と難しいのですが、それの一つの答えとして、まず最初にたっぷり時間をかけて素材について話し合うことが有効だと感じています。素材を目の前にしてこれが好き、こういうところが好き、こんな感じの使い方しているのを見ていいと思った、といった話をたくさんするだけで、自動的に好みや趣味を作り手が共有しながらとても反映させやすく、それと同時にお客様にもその素材についてのいいところ悪いところ、価格などが整理してお伝えできるのでとても効果的なリスクマネジメントになります。実は素材というのは後々特にクレームに繋がりやすい部分で、一般にはそのリスクを避けるあまり、素材の魅力よりもデメリットを避けることを第一とした素材使いがほとんどだと思います。ですがはじめに素材についてよく話し合いをすることで、あるデメリット受け入れる選択が出来た場合、一気に魅力的なデザインの可能性が広がったりすることはよくあります。というのも概ね魅力的な素材は結構弱点や問題点もしっかり持っている場合がほとんどだからです。
加えて実は素材について最初に話すことはコストについても有効な場合がほとんどです。例えると冷蔵庫にあるもので献立を考える感じといえば理解しやすいかもしれません。

そして最大の理由が、私たちが素材の話をするのが楽しくて仕方がないというのがあります。もともと長く木材を扱ってきたせいもあり、その魅力や様々な個性を伝えたくて仕方がないというのが背景にあります。
私たちは皆様にこれが本当に自分の好きなもの、好きな建物、好きな風景だと言って納得してもらえるよう、素材をとおしてモノづくりに寄り添いたいと考えています。